ソファで長い足を組んだまま、司は妖艶に笑った。


「…やっぱりその顔、たまんない」

喉の奥で笑っている。
端から見ればただの変態のように見える。

あたしは体の痛さなんて忘れて、立ち上がった。

意識が逸れると、人間はあることを忘れてしまうようだ。呆れるくらい、簡単なつくりになっている。


「お前、ここに精通してんのか」

司の前に立って、口を開いた。
すると、司ではなく金髪が話に割り込んできた。

「精通もなにも、ここのリーダーは司だ」
「てめぇに聞いてねえよ!!」

そういうと、司はいつもみたいにけらけらと笑った。

「弥刀ちゃん、酷い顔だよね。昨日より増した?生傷」
「司、答えろ」
「リーダーかどうかは知らないけど、僕は昔からここが居場所だよ」


全身の力が抜けた気がした。
こいつは、こういう奴らと絡む人間だったんだ。
一歩間違えたら、いや、もう間違えてる。犯罪をするような仲間を居場所としているような奴だったんだ。


「…いまの弥刀ちゃん、だまされた、みたいな顔してて最高だよね。僕は何もだましてないんだけどね。ただ、言わなかっただけ」

そんな顔をしているつもりは無かった。
ただ、“騙された”と言う感覚があるのは事実だ。

どこか、嘘をつかれたような。だけど、今までのどこを信じて、それを“本当”だと思いこんでいたのかも分からない。

こいつらは、簡単に京極を馬鹿にするような奴なんだぞ…?
さっきだって金髪が“まじな奴”とか言って、自分とやくざに一線を引いているみたいな言い方をしたし。


そんなやつとつるんでいる、そんな奴のリーダーが司だったんだ。

「て、めっ…!!!」

あたしはかっとなって、司の胸倉を掴んでいた。
何も考えられなくなっていた。

周りがどよめく。女から悲鳴が聞こえた。

そんなことにも腹が立って。なんで、司はこんなに恐れられているんだ。
そんなに濃厚に、ここに居たってことなのか。