自由な手で、男の顔面を殴った。
とにかく、力の限り。
この場合、遠慮なんていらない。

一瞬男の力が緩む。
逃げないと。何が起こるかわからない。

「ってぇな!!」

逃げる暇もなく、左頬を殴られた。

その痛みに、冷静、という理性を失った気がした。

何も考えないで、あたしはそいつに向き合う。
そして、本能の限り拳を振り上げた。

身長のブランクが辛い。

あたしは先日司にしたように、男の胸と腹の中間あたりに蹴りを入れた。
男がバランスを崩して、倒れそうになる。
倒れそうになる体を更に蹴って、床に倒した。

すぐに上に乗って、一方的に攻撃し続けた。

今は、強硬手段しかない。
男に、攻撃されないようにするには、自分から攻撃するしかない。

よく見ると指の第2関節に血が滲んでいた。
こいつの血なのか、殴って出来た血なのかは分からない。

「っ、!」

男の手が、あたしの右手を掴んだ。
その瞬間に、あたしの体が左方向に吹き飛ぶ。

吹き飛んだ瞬間何が起こったかわからなくて、すぐに襲った痛みが脳味噌を占領した。

「う、…」

襲った痛みの原因は、右半身だった。
一瞬で、男に蹴られたんだと理解した。

どいつもこいつも、痛んでいるところを狙いやがって。

鳩尾を殴られたみたいに、息ができない。

冷たい感覚がして、口元を拭うと鮮血だった。いつの間にか鼻血を出していたのかもしれない。

「…てめぇ、凶暴だな」

うずくまったまま金髪を見ると、金髪も鼻血を出していた。
手の甲で拭っている。

わき腹が熱を持ちすぎて、自分の体がどうなっているか分からない。


「…あ、んたの仲間がひったくり失敗して、…その原因があたしだっただけだろ?」
「…だけ?」
「あたしは自分のやりたいことをやったまで。あんたらも自分のやりたいことをやったまで。そいつが捕まったからって、そいつを可哀想とか絶対思わない」

金髪を見上げた。
何か言われるか殴られるかすると思ったのに、そいつは眉を寄せて、目を細めるだけだった。