殴られた顔をかばってうずくまった彼女を置いて、あたしはすぐに後ろを振り返った。

男が1人居る。
目を見開いて、あたしを見ていた。

「…ビニールテープ千切って脱走する女なんて、初めて見たわ」

おかしそうに笑っている。
いつの間にか男は出口の前に仁王立ちしていた。

どう逃げる?

この男に勝てない可能性もなくはない。まず、あたしはこいつの実力を知らない。
1番いい方法は逃げる事。
とにかく、逃げないと安全は保証されない。

出口と正反対の、窓の近くに走り回った。
ソファの上に乗り上げて、半透明で外が良く見えない窓を開ける。

あたしは息を呑んだ。

「おい、ちょっと待てや!!」

すぐに駆けつけてくる男。

どうする、あたし。

窓からみた地上は、低くはなかった。
だけど、それほど高くも無い。
ビルの3,4階と言った所だろうか。

早く、逃げるべきなんだけど。
当たり前だけど、恐怖は拭いきれない。

金髪が視界の一端に映る。

今しかない。妥当に逃げられる方法は、ここから飛び降りる事。

あたしは窓に掛けていた手をはずした。
そのまま重力に従って、窓の外にゆっくり体が流れる。

冷たい外の風が体を包んで、心臓が飛び跳ねた。違う、この鼓動は、きっと恐怖だ。
やばい、ついに窓から飛び降りてしまった。

と、思ったとき。

「いっだああ!!」
「アホか!てめぇがどんなに丈夫でもいいとこ全身打撲だぞ!!」

金髪が史上最高しかっめ面をして、あたしの紫色になった手首を掴んだ。

半分まで落ちかけていた体を、ずるずると室内に戻される。
外の冷気が薄れていく気がした。

「第一な、てめぇをやすやす逃がす訳にはいかねんだよ」

ずるずるとソファの上を滑っていって、床に寝転がる形であたしは室内に落ちた。

部屋に女がいなかった。
出口は無人、あっぱらぱー。つまり、逃げるのなら今。

「あっテメ!!」

すぐに体を起こして、低い姿勢のまま男の脇をすり抜けた。
そのまま出口に向かって全速力。

この部屋は微妙な広さで困る。狭くないし、言うほど広くも無い。だけど逃げるにしては広すぎる。なんだろな。

「うわああ!!離せ!!あたしはなんも悪いことしてないっつの!!」
「そういうハナシじゃねぇんだよ!こっちにはこっちのルールっつーもんがあんだよ」

腕を掴まれて、あと一歩で引きずられる。
あたしを捕まえたまま、男は扉を閉めた。