ひったくり。

確か、学校に行く前の時間、おばあちゃんが鞄をひったくられて…

「…あ」

その男を捕まえた思い出がある。

「まさか、そいつがあんたらの仲間?」

山勘だった。
だけど、あたしが今ここに居るのは、そうである理由しか考えられない。

「うん、正解。そのお陰で、私達が炙りだされるところだったんだから」
「っ、いっだ!!!」

押さえつけられていた右横腹が、蹴られる。

「看板直撃?あれは痛いだろうね」

女は笑った。
なんだこいつ、どこで見てたんだ。

「それで、どうする気?そんなことを教えてもらって、どっちが不利になるのか分かったもんじゃないわよ」

思ったことを口にしたまでだ。
あたしはどんな状況でも、乞わない。
今までの誘拐歴の教訓だ。

案の定、女の顔が歪んだ。奥の男は見ているばかり。

顔に衝撃が走って、口の中が切れた気がする。
つい先日、司と殴りあったばかりの傷が悲鳴をあげていた。

今は大人しくやられておけばいい。

そうしている間にあたしは、手に食い込んだビニールテープを千切る作業にとりかかっている。

爪で裂いて、細くなった紐を地道に1本ずつ千切っていく。
ビニールテープは伸びるから、案外難しい。

だけど、これは絶対逃げれる。あたしの本能がそう言った気がする。

鉄の味が、口いっぱいに広がる。
きっと今、ものすごい顔をしていると思う。
かなり、やばい顔。それはもう、女子とは思えないような。


そこであたしは手ごたえを感じた。

「…散々やらせておけば」

左手に絡み付いているビニールテープを自由になった右手でずり下げた。
手袋みたいに、するりと落ちた紐。

「好き勝手やりやがって!!」

あたしはまず、女の胸倉を掴んだ。
自分より身長が高い。だけど、自分より細い。

勢いに任せて、その顔面に右手を振り上げた。
視界に入った自分の手首は紫色に変色していた。

女の軽い体は簡単に吹っ飛んで、後ろに倒れこむ。

あたしを妙な目つきで睨んだ。

こっちだって、伊達に16年間生きてきたわけじゃない。

倒れこんでもすぐに体勢を立て直す女の肩を床に押さえつけた。
細い肩は、すぐにぴたりと力を失う。

そいつの腰に跨って、あたしはもう1発女を殴った。

綺麗な白い肌が、赤くなる。