「え、堅気?」

我ながらアホな質問をしてしまった。
なんだ。Are you Katagi?って。

案の定、男は爆笑している。
くっそ、恥かいた。馬鹿だった。

すると、またドアが勢いよく開く。

「いった!!」

がつんと頭を打ってしまう。
またしても、そちらの方向を見た。

「え、レイジ、このアマ?」
「おうそうそう、こいつこいつ」

白色に近い金髪を揺らして、レイジと呼ばれた男は笑った。

入ってきたのは、女だった。
冬だというのにやたら露出している格好の、女。

あたしの顔をまじまじと見る。

「いっだ!!!…なにすんだ!!!」

何も考えていないような顔で、女はあたしの顔面を思い切り殴った。

「やぁだ、こいつよくなくね。もう顔ぼろぼろじゃん。マサがやったの?」
「ちげぇらしいよ。こいつもとからこんな顔面だったらしい。連れてくる時、1発殴ったって言ってたけど」
「にしても起きるの早いわねー」

あたしは2人を睨んだ。
なんでこんな、見たこともない堅気に痛めつけられなきゃならないんだ。あたしは何もしてないぞ。

「…あたしはあんたらに何もしてないし、て言うかあんたらのことなんて知らない」

体勢を整えながら、2人を見る。
この2人がどういった関係なのかも、2人が誰なのかも、ここがどこなのかも知らない。
まったくもっての初対面だ。

「っ、い」

細っこい足で、わき腹を蹴られた。
しかも、右の。

「、っ…」

一瞬息ができなくなった。
なんでこんなピンポイントで人が病んでいるところを痛めつけるんだ。

「…何もしてない?それが、してるんだよね」

女は不機嫌そうに眉を寄せた。

「きみは俺等の“お仕事”を邪魔してくれた」

金髪はただあたしをじっと見詰めた。

仕事?
全く見に覚えがない。
何回も言うけど、初対面な訳で。

「…なんのことか、分からない」

真正面の窓から、しっかりと朝日が差し込んで来る。
明るさから、もう午後が近いんじゃないかと思った。

「ひったくり」

女はそれだけ呟いた。

「…はぁ?」
「とぼけんな。ああいうの、すっごく困るんだよね」

また、女の足が右わき腹に食い込んだ。
蹴られたんじゃない。置かれたんだ。

声が出ない。
こんなに悪化してたっけ。かなり痛みが増している。

「あんた、この前ひったくり捕まえただろ?」

男が口を開く。
そういわれて、あたしは記憶を辿った。