「あー寒い…」

冷たい風が、むき出しの顔を攻撃する。
ズボンはいててよかった。女子力の欠片もないけど。
どうせこんな早朝に居るのは更年期のじーさんばーさんだけなんだし、女子力なんて披露しなくてもいいんだけど。

てくてくと歩いているうちに、コンビニが少しずつ近づいてくる。

車・自転車は1台も停まっていない。まぁ、こんな早朝だから仕方ないか。
道路に車は走ってるのにな。
過疎ってるなー。

店内に入ると、暖房の暖かさが体を溶かす。

ふと店内を見渡すと、レジには誰もいない。おいおい、大丈夫なんだろうか。
まぁ、ここらへんは京極家の縄張りだから、強盗するようなおちゃらけた考えの奴は居ないだろうけど。
それでも今の若者の考えは突飛だ。気をつけたほうがいいぞ、店員さん。

慌てた様子のバイトらしき店員さんが奥のほうから顔を出してきた。
店員さん、がんばれ。あと少しじゃないか。

そうぼんやり思いながら、あたしは文房具コーナーに並べてある、オレンジペンを手に取った。

それの会計を済まして、あたしはコンビニを出る。

コンビニの暖かい温度に慣れてしまった体に、外の冷気は応える。

ポケットに手を入れて、俯きながら歩いた。

と、そこで靴が目に入った。
あたしは慌てて顔を上げた。
下を向いて歩いていたから、真っ直ぐ進んでいなかったのかもしれない。ぶつかってしまっていた可能性もなくはない。

謝ろうと口を開いたところだった。

「、ん?!」

脳味噌が揺れる勢いで、冷たくて大きな手のひらが口元を覆った。
何が起こったかわからない。

とりあえず、どんな人がこの口を覆っているのか、目だけを上に動かす。

かなり背が高い。

そこであたしは、息を呑んだ。

そこに居たのは、明らかに“同業者”の男。

家にいる者より随分若い…、きっとあたしと同じくらい。
だけどよくみる、凶器顔。