「…悪くは、無い。」

 カフェに着いて、頼んだオシャレなケーキを一口食べながら、ポツリと呟く恭。


 「えー、超美味しいじゃん。」

 普通に美味しいって言えば良いのに。恭は素直じゃないなぁ。



 「生クリームが固い、もっと優しく立てた方がいい。あと、生クリームにグランマニエを入れているようだけど、上に乗っているフルーツの香りがグランマニエのほのかな香りを邪魔していて…」


 「ぐらんまにえ?」

 なにそれ。なんか可愛くない名前。


 「…オレンジの酒みたいなもの。」

 そんなことも知らないのか、と言いたげな恭の表情。だって知らないものは、知らないんだもん。


 「恭、詳しいんだね。」


 「兄貴、パティシエだし。」

 へー、お兄さん居たんだ。てか、パティシエなんだ。


 「…なにニヤニヤしてんの。気持ち悪い。」

 さっきまですごく生き生きとケーキの話をしていた恭が、無表情に戻って私を見る。


 「いや、恭の知らなかったことが知れて…嬉しくて。」

 そう言って笑いかけても、ロボットみたいに表情が変わらない恭。全然甘い雰囲気になんかならないんだ。


 「…なにそれ、ストーカーなの?」

 いつもみたいに冷たくそう言いながら残りのケーキも食べる恭。せっかくのデートなのに、相変わらず私になんか見向きもしない。


 いや、別に一緒に居られるだけでいいんだけど、恭と付き合って二週間経つのに、全然近付けてない気がするしーーあぁ、ネガティブなってきた。ストーカーなのかな、つら。


 「いい加減、食べれば。」


 「え?」


 「だから。愛理も、早く食べれば。他にも行きたいとこ、あるんでしょ。」

 表情を変えず、私のケーキをフォークを使って差しながら、面倒くさそうにそう言う。


 …きゅん。

 今のはかなりときめいた。ケーキ食べてサヨウナラじゃないんだ。もっと一緒に居られるんだ。純粋に嬉しい。


 「ソッコー食べる!」

 恭にそう言って、急いでケーキを食べる。



 「愛理、食べ方、汚い。」

 そう言って、恭は食べ終わったお皿を丁寧に片付けて読書を始める。あー、本当に、カッコいい。


 「なに見てんの。早く食べなよ。」

 なんて。恭はどうして私のことを見ていないのに、私の視線に気付くんだろう。


 恭はなんで、私のことなんて興味無いのに、私がネガティブになったときにちょっとだけ優しくなるんだろう。

 恭って、謎だよね。冷たいの?優しいの?


 「1分以内に完食しなきゃ、帰るから。」 

 多分、いや絶対。冷淡なんだね。