それと同時に、バッ…と田中があたしから離れる。
――急に現実に引き戻されたような感覚。
い、今の…なに?
「…悪い」
いつまでも電話に出ることもできず、呆けたようにそこに座っているあたしに、顔を逸らした田中がボソッと言った。
「…俺、風呂入ってくるから。……電話でろよ」
そしてあたしを見ないまま立ち上がり、早足で部屋を出ていく。
…今の…なに!?
ボンヤリしたままポケットに入っていたスマホを取り出すと、友梨から着信がきていた。
「もしもし…」
「あ、まどか!?あのさ、今日の課題のことなんだけどー…」
友梨からの電話に助けられたような、そうでもなかったような…
でも、あの空気の中にいたら、たぶんあたし
…勘違いしちゃってた。
一瞬、田中も自分を好きでいてくれてる、なんて
そんな感覚に陥ってた。
「ごめん友梨…今日はもう、寝るわ」
「えっ!?ちょっとまだ話は終わってな、まど…」
ブチッ
友梨には悪いけど、今日はもう…一日の状況判断量を超えた。
そっと頬に触れると、まるでさっきの感覚が蘇ってくるような。
…田中のバカ。
…好きでもないのに、あんなに優しく触らないでよ…。



