「…………」

私は暫く何も言うことができなかった。いったい、「彼」はどこにいったのだろう?

「…………」

目の前には薄暗い台所。その台所の流しの前に、薄く透けた人影が私を見つめていた。

「…………」

その人影の姿は、毛先が少しバサついている、背景の暗闇よりも鮮やかな黒色のショートヘアー。顔は前髪で若干隠れているが、目元ははっきりと見えている。
 
服はややサイズが大きめの白い長袖を着ており、肩の辺りが少し着崩れている。
 
表情はまるで幽霊のように無表情で、そしてこれがこの人影の1番印象的な部分なのだが、前髪の隙間から覗かれた、ギョロついた瞳。

その瞳を上目遣いで立った状態の男の子が、私をじっと見つめている。

「彼」だ。

「彼」――男の子は何をするわけでもなく、ただ呪詛をたずさえているかのような表情で、掛布団の中で寝ている私を見ていた。

「……どうしたの? こっちに来る?」

 
――だから、私は顔に笑みを浮かべて、優しく彼(男の子)に呼びかけた。