「……私は、きみに私の身体をあげることはできないよ」
「いやだっ、『存在』がっ、『存在』が欲しいっ!! いやだいやだいやだいやだっ!!」

 
「彼」は強く、再び泣き出しながら私の返答を拒絶した(正確には「拒否」、なのだろう。「彼」の感情は子供がわがままを突き通すそれではなく、私の返答自体を認めたくない、というものだったから)。「彼」の訴えが、私の頭の中を占領する。

「……でも、きみはちゃんと『存在』しているよ。だって、きみは今もちゃんと私と話しているでしょ?」

 
私の言葉が伝わったのか伝わらなかったのかはわからなかったけれども、「彼」の泣き声が止まった。でも、それでもまだ、呟くように小さく「いやだいやだ」と繰り返していた。
 
だから、――――私は言う。

「だけど、私はきみの居場所になってあげることはできるよ。きみの『存在』は私が認識する。きみはちゃんと存在しているよ」

「彼」は止まる。
私はもう一度、先程自分が言った言葉を繰り返す。

「きみはちゃんと存在しているから」

声は聞こえてこない。先程まであった「彼」の感覚が私の中からふっとなくなった感じがした。