「存在?」
「わからない……、『僕』の存在が……。『僕』の存在を……っ、欲しい!欲しい、『僕』は存在したいっ……!こわい、こわいこわいっ!!」
「……大丈夫、大丈夫だよ。何も怖くなんかないよ……」

 
私はずっと泣いている「彼」にそう言った。
 
やがて泣き声が治まった頃合いを見計らって、私は「彼」に質問をした。

「……ねぇ、きみはどこから来たの?」
「……わからない」
「君は幽霊なの? それとも別の存在なの?」
「……違う」

おそらく『幽霊か』という問いかけに対してだろう。

「ねぇ、もし大丈夫だったら、きみの名前を教えてくれないかな?」
「…………」

沈黙。

「名前、わからないの?」
「…………」

 
沈黙、ということは、どうやら「彼」は私に名前を言いたくないのか、それとも「彼」に名乗る名前がないのか……。

「……きみは、どうしたいの?」
「こわい……、『存在』が欲しい、『存在』がほしい……!」

「彼」の感情が脳に伝わってくる。伝わってくる、というよりも、脳に流れ込んでくると表現した方が正しいだろう。
 
私の脳内を流れている感情から推測すると、「彼」が言っている「存在が欲しい」とは、所謂「肉体が欲しい」のではなく、「誰かに自分の存在が『いる』ことを認識して欲しい」というものなのだ。……たぶん、私の憶測かもしれないけれども。