仁side


「はぁ…」


家に着いて自分の部屋で一息つく。

ひかり…

さっきのひかりが聞いてきた瞬間を思い出す。
あの時、一瞬動揺しかけた。
いや、動揺した。


「うまくやりすごせた…よな?」


さっきのは全て演技。
ひかりが昔の記憶を聞いてきた時、すごく言いたかった。
オレとお前は付き合ってたんだって。
だけど今じゃない気がした。
それにオレには計画がある。

プルルルル

そう思っていた時、携帯の着信音が鳴る。
大方誰からの電話か想像できた。


「もしもし」

『もしもーし』

「やっぱりか」


電話相手は鹿男。
オレにこの時間帯で電話をかけてくるヤツは鹿男くらいだ。


『なんか残念そうだね?
俺じゃダメなわけー?』

「そうじゃねーよ。
んで、用事はなんだ?」

『やっと調べたんだ』

「ほんとか?」


さすが鹿男。
本当に役に立つ男だ。


『やっぱりひかり、仁との記憶だけないみたいなんだよね』

「そうか…
ひかりが生徒会に来たばっかりの時、強引にキスしたんだよ。
そのことも忘れてた」

『さっすが仁だねぇ。
そっか…じゃあどうするの?』


オレと鹿男は作戦を練り始めていた。
だけど、今まで練ってきた計画は無しにしようと思った。


「鹿男、作戦変更だ」

『えぇ!?』

「今日、ひかりと話してて一番いい方法を思いついた」


鹿男はなになに?と食いつく。


「わざと…ひかりから離れる」

『え?』

「だから…」


オレは自分で考えた作戦を鹿男に伝える。


『仁らしいっていうかなんていうか…
相変わらず不器用だね~』

「うるせー。
これが一番ベストなんだよ!」


そうだと…信じたい。
これでひかりの記憶が戻ってくれることを願うしかできない。


『まぁ…多分ひかりなら動いてくれると思う』

「だろ?
ひかりならそう動いてくれるはずだ」


変な自信がある。
それはひかりを信用しているから。
きっとオレのところへ戻ってきてくれると。
でも我ながら不器用だと思う。
こんなことしかできない。

オレもまだまだか…


『全力で協力するよ、仁』

「お前はどーすんだよ?」

『俺はいいの!
どっちも応援したくなってきちゃったし!
コウには悪いんだけどね』


確かにな…
でも、昂之心はきっと望んでいるはずだ。
オレが真正面からぶつかることを。
期待に応えてやるぜ、昂之心。


『それじゃあまずは、待つことからだね?』

「だな!」

『長いなぁ』

「途中で計画バレんなよ?鹿男」

『はいはーい!』


本当に大丈夫だろうな…

軽く疑う。
鹿男は正直者だから、ポロっと言ってしまうこともしばしば。
裏表ないのはいいことだと思うが、大事なところで言われると困る。


「お前、言ったらどうなるかわかってんのか?」


鹿男に厚をかける。


『わかってるってー!
怖いよもう!』


電話越しに笑う鹿男。

まったくコイツは…

オレも自然と笑っていた。
少し肩の力も抜ける。

鹿男、気ぃ使ってんだな。
悪いな…ほんと。

口に出すのは恥ずかしいから、心の中で感謝の気持ちを伝えた。
鹿男なら届くはずだ。


『さて、俺も頑張って情報集めないとね!』

「頑張れよ、オレの駒」

『ひどー!
その言い方はないんじゃない?』


また鹿男との他愛もない話しが始まった。

とりあえず…
これから頑張るか。