金魚に詰草、簪、

宗十郎様から頂くものすべて、

他の誰かに獲られてしまうのなんて、


「返してくださいっ…」


「これはお前を買った証拠だ。

返してほしくば大奥を抜けて、

私と祝言を上げることを誓え」


いくらでも私の身体はあげられます。


けれど、

一つのその簪は替えなんて存在しないから。


「はい…。

生島様の妻となれば

簪を返してくださるのですね」


「あの男のためなら何でもするつもりか」


何故だか生島様の目が

辛く見えてしまうのは

勘違いでございますか。


「私を命かながら

守って下さった宗十郎様を一生、

付き従うと契りを交わしたからです」


「…そ。

ま、お前は私の女、

宗十郎に知られないように

気を付けることだ」


代わりにと、

生島様の簪が私の頭に挿し、

また一つ契約を結ぶのでした。


愛しい人が帰ってくる前に

急いで着物を直すのです。


「…宗十郎様…申し訳ありません…」


ただ涙を流して、

怖かったから逃げたのです。


もしも嫌がってしまえば、

宗十郎様が傷ついてしまうからと。