「逃げるなんて卑怯だと思わないかい、太夫」


「あ…菊乃丞様じゃない…」


閉めようとしても

男性の力を敵うことなどできずに、

宗十郎様のお部屋に乗り込んでしまったのです。


「…ここは宗十郎様のお部屋でございます。

申し訳ないのですが、」


「いやいや。私が興味あるのはあんただ」


「勝手に入られては彼も嫌です」


「牢屋にいれられても男を想うのかい?一途だね」


「…いけませんか?

お母様も一途で思っていらしたから

私は生まれたのです」


生島様は容姿端麗でいらっしゃっるから

大奥の方々からご好意をいただくのでしょう。


「お帰り下さいませ。

宗十郎様は菊乃丞様のみ部屋の出入りを…っん、」


扉を閉めていないにもかかわらず、

脱がされていく始末、

愛のない口づけも空しいだけなのに、


「許して…ください…」


「取引をしようか。

絵島と手を組んだ、

お前と宗十郎をあわせてやると」


抜き取られた簪、


「江戸簪屋の一点もの…

特注品じゃないか。

どこで買った、宗十郎だろ」


彼の頭に挿しこまれて、


「返して…」


恥ずかしさよりも、

愛しい人からもらう品を奪われることの方が、

ずっと辛いのです。