「どうぞ、お目に掛かります。
生島新五郎と申す」
「生島様だわ!」
「江戸一番の役者でいるそうよ!」
ある方の頬が
赤く染まっていたのを見たのです。
私が宗十郎様を想う気持ちと同じように
思えるのは勘違いなのでしょうか。
「桐里、本日は生島の主演だ。
裏手に回れば、宗十郎に会えるぞ」
その方がそう私に教えてくださり、
浮き足立ってしまう私は
そっと女中たちの輪から抜けました。
この場を設けてくださる人は、
絵島様しかいらっしゃらないのです。
「霧里太夫」
久しぶりの名で呼ばれて、
足を止めて後ろを向いていましても、
人ごみで声の主は分かるわけもなく…。
でも宗十郎様に会いたくて、
彼の着物、靴、髪型、凛々しい後ろ姿を
見つけた時は自分の気持ちよりも体が動いて、
「桐里っ!?」
「宗十郎様…、会いたかったです」
「私もあいたかった」
「絵島様に言われて飛んできたのです」
他の人に抱きしめられるよりも
大好きな人に抱きしめられた方が
数千倍に温かくて
数万倍に心が満たされます。
「開園まで時間がある。
私の部屋に行こう」