「流石の千亜希も俺に魅せられて、家に着いたのも気づかないもんねぇ」
髪をかき上げたのはわざとなのに、もはやそれには年期が入ってて、仕草に不自然さがない。
「送ってくれてありがとう」
狐につままれたような気分だ。
なんか後味悪いなぁ……
「ちょっと!」
家の門の前でオレが傘から出ようとしたら優がオレの手を掴んで止めた。
「何か用?」
「遠足は、家の中に入るまでが遠足なんだよ」
オレにはマダムキラーとかマドモァゼルキラーとかの笑顔は通用しないってことを、コイツは知らないのか!?
メチャクチャ爽やかな笑顔で小学校の先生みたいなことを言い、優は玄関のドアの所まで送ってくれた。
「ありがとな」
「こちらこそ。風邪引くなよ」
オレが礼を言ったら優はそう言って、雨の中を一人、帰って行った。
悪いヤツじゃないんだよ。
ちょっと趣味が変なだけで。
完璧青年の優と廣子をくっつけて、変態意識から、廣子はオレが守る。
そしたらうまくいくんじゃねぇ?
