オレの傘じゃないやつ持ってるってことはさぁ、一回家に帰ったんでしょぉ?
あれ、でもコイツ制服だ。
「途中から使わなくなる傘を持ち歩くのは不合理だと思わない?」
途中から使わなくなる?
あぁ、送ってくれようとしてるのか。
不合理かどうかは知らないけど、不便だよ。
「なんかスゲェ計算高いな~」
だけど、せっかく迎えに来てくれたのにそんなこと言えるはずもない。
「なぁ、何で制服なの? 家帰ったんだろ?」
「関係者以外立ち入り禁止って、門にあんじゃん」
あ~ナルホド、顔パスならぬ、制服パスですか。
ザーザー降る雨の中に、オレたちは一歩踏み出した。
優が持ってるのはデカ目の傘だけど、やっぱ二人で使うには小さすぎる。
肩に雨が降りかかり、ブラウスに染みこんだ。
このままじゃ下着が透ける!?
とりあえず、今日は白だから気にすることないかなぁ。
と思ったりしたけど、隣り歩いてんのは男だ。
いくら友だちだっていっても……
ヤベェ、なんかスゲェ気になってきた。
優は男だから、オレなんかよりもっと意識してるかもしんない。
何か話題ふろう!
「今日、廣子とどうだった?」
「まぁまぁかな」
「何話したんだよ?」
「『源氏物語』について」
きぇ~。
そんな話し、オレは授業でもしたくねぇよ。
基本勉強キライ、古典に興味ナシ。
「紫の上にしよう! とか思うんじゃねぇぞ?」
あのマザコン男が自分の理想の女に養育し、妻にしたのが紫の上。
オレあんまり古典好きじゃねぇからよく分かんねぇけど、オレのイメージでは紫の上って、奥ゆかしくて可愛い女。
……メッチャ廣子!!
「紫の上……」
優が怪しく呟いた。
表向きは何でもできる爽やか青年。
だがその実体は紙を食い、女装をする変態男。
