バカと利口は紙一重~実話込み~

 「っつうのはウッソ~」


 はぁっ?


 「おいテメェ」

 「これでチャラ」


 そう言った優は真面目な顔してオレの目を見つめてた。

 何でそんな真剣な顔して見てんのか全然分かんなくて、オレは顔をしかめる。

 優はいたずらっぽくニヤリと笑って、オレの額をつんっと弾いた。


 「傘、持ってないんだろ?」


 あ……


 「俺が千亜希にダマされると思わなかったね~」

 「ダマしてないもん」

 「確かにあんとき、千亜希は傘手に持ってたもんな」


 優は照れくさそうにかりかり頭を掻いた。


 「オレだって、ただ引っかかってばっかじゃねぇよ?」


 こういうのはいつも優が使う手口だ。


 「今度は千亜希が真似できない高度なやつ考えよっと」


 左手で手すりを掴み、優はひょいっと立ち上がった。

 スラッと背の高い優の横顔が蛍光灯に照らされてシルエットになる。



 通った鼻筋、シャープな顎のライン。

 首から突き出た喉仏がゆっくり上下する。


 オレの目の前に、ふっと手が伸びた。



 「え」

 「帰るぞ」


 優は前を向いたまま。

 シルエットになってるせいで、表情がよく分からない。

 けど、差し出された手は汗でキラキラ光ってた。

 オレの左手が優の手の平に乗ると、ギュッと力が込められて、オレは引っ張り上げられた。

 すぐに、するっと手が抜ける。

 優は無言のまま、歩き出した。