吐き気がする。


すぐ隣から、鉄の匂いがする。


周りの人達の悲鳴も聞こえない。


耳鳴りが、聴覚を支配する。


不意に、鎌の無邪気な笑い声が聞こえた気がした。


顔の前で組んだ腕は動かない。


現状を拒否するように。


今隣で鉄の匂いを発する何かを、確かめたくなかった。


それが親友だと認めたくなかった。


「解斗君」


鎌の声が聞こえた。


その声に気付いた瞬間、周りの音が聞こえ始めた。


組んだ腕を戻し、目を開けて、鎌を探した。


だが、鎌の姿はどこにもなかった。


足が濡れている気がする。


白い靴が、赤くなっているのを想像する。


おさまった吐き気がまた襲ってくる。


隣を見なければならない。


見ないといけない。


そんな気がして、パッと隣を見た。


一瞬見ただけでは、鉄柱がコンクリートに刺さっている事しか分からない。


解斗は操られたように、ゆっくりと下を向いた。


そこには鉄柱が突き刺さり、赤い液体を流し続ける親友の姿があった───