だけど…それは出来なかったんだ。
私は独りぼっちだったから。
たった一人の心しか知らなかったから。
感情を捨てきる事なんて出来なかった。
寂しさや悲しさ…辛さや苦しみが増す一方だったんだ。
「也佳ちゃん。お客さんよ。」
「…あ、はい。」
初めて咲さんに会ったのはそんな時。
「初めまして。」
綺麗な人だった。
その他の言葉は見当たらなくて第一印象はただそれだけ。
その人は咲です。と優しい口調で名乗った。
何がこれから話されるのかと…暫く沈黙が流れる中、
焦げ茶色の長い髪が開いた窓から入ってくる風に揺られていた。
目に映る光景はスローモーションに見えて、
私に向かい合った席に座る咲さんの言葉も耳に届くまで時間がかかった。
というか…やけに木が揺れるザワザワとした音がうるさかった。
だからだと思う。
私にはこう聞こえてしまった。
『私の家で一緒に暮さない?…』
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