ビターオレンジ。


小さい頃。

確か5歳の時…共働きのお母さんとお父さんが今度の日曜日に3人で出掛けようって誘ってくれたの。


幼いながらにワクワクして…



それはもう。楽しみで。


滅多に3人揃う事もないし、ほとんど家でも一人が多かった。



だから凄く嬉しかったんだ…。




そして当日…お母さんの作ったお弁当を持って動物園に行った。

写真は何故か撮ってはくれなかったけど、あの日のお母さんやお父さんの笑顔は一生忘れないって心に決めた。




だってそれ程楽しかったんだもん。

今度はいつ来れるかわからないし、いつまた3人で笑う事が出来るか…



それに、普段食べているコンビニ弁当じゃなく…お母さんの手づくり弁当だったから美味しく感じた。




だけど。動物園の帰り道。

家とは真逆の道を車ははしっていた。



何処に行くのかも教えてくれず、もしかしたらなにかサプライズがあるのかもしれないとまで考えて…



なのに…





なのになのに…





「お母さん…?」


初めて繋いだお母さんの手はとても冷たくて、さっき見ていた笑顔はもうそこにはなかった。





「お母さんとねお父さん。2人で遠くに行くことになったの。だからもう一緒に居られないのよ。」





冷めた口調で…目を合わずに言われた言葉。

この時、あぁ。私はもういらない子なんだって。




悪い子だから…お母さんもお父さんも嫌いになったんだって思った。






いくら部屋の片付けをしても、いくら勉強をしても、いくらわがままを言わなくても…


いくら私がお母さんとお父さんを好きでも。









私はお母さんとお父さんにとっていらない子だったんだって。


その時、初めて知った。




だから、泣かなかった。

いや…泣けなかった。




困らせてしまうと思ったから。
わがままを言ってはいけないと思ったから。




「これからよろしくね。也佳ちゃん。」





優しそうに微笑んだ施設の先生と施設の中へ入った。



もう2度とお母さんと会えないと理解しながら。


もう2度とお父さんの笑顔を見る事ができないと知っていながら。





ただ…なんの感情ももてずにいた。



咲さんに出会うまで。