そんな斗間君と初めて会った日は、
私が咲さんにお願いをして何日かたってからだった。
ピンポーンっと部屋に響く音が聞こえてきて、
嬉しそうにパタパタとスリッパを鳴らせて玄関に向かった咲さん。
かっこいい人かな。
どんな人何だろうな。
なんて期待を抱きながら暫くすると、
「お邪魔します。」
その声が私の耳に届いて…顔をあげてみた。
…ドキッとしたんだ。
一瞬だけ呼吸が止まって。
息が上手く吸えなかった。
だけど、あくまでも相手は咲さんの好きな人。
もしかしたら私のお父さんになる人だ。
そんな訳ない。
今までそういう事に対しては上手く生きてきたんだからそんな筈ない。
そうやって自分を騙し騙しで信じ込ませた。
それに、思った通りで咲さんは斗間くんと結婚を前提に付き合っていたみたいで、
それを聞いて安心した。
だって咲さんが結婚するって聞いても少しも悲しくなかったから。
むしろ凄く嬉しかった。
やっぱり気のせいだったと浮かれて後悔したけどね。
「也~!!聞いてよ。咲がさ今日の晩御飯抜きだって言うんだよ…?」
ギュッと抱き締められた距離が恥ずかしくて、
「也佳…嘘だろ?それ小5の問題だよ?今、中学生だよな。しかも受験生…あ、そっか馬鹿だt「五月蝿い。斗間君。」
意地悪ででもちゃんと勉強は教えてくれて。
時には同い年の友達みたいに接してくれて。
時には本当の父親の様に接してくれた。
「あ、也佳。ビターオレンジ味のキャンディーがあるの知ってる?あれは凄く美味しいよ。」
也佳って呼ぶその声に一々反応しちゃって。
あぁ、そうだ。
斗間君がキャンディーを好きで、私も好きになったんだ。
そしていつの間にか貴方を知りすぎてしまい、それと同時に何とも言えない後悔が身体を蝕んでいった。

