キーンコーンカーンコーン…
咲さんと過ごした2年間の中のほんの一部を思い出していると、
あっという間に授業の終わりをつげるチャイムがなった。
「また明日ね。」
「うん。」
ただ、一言そう本宮君と会話をして教室に帰る。
タンッ…タンッ…
一段ずつ思いを噛み締める様に降りた階段。
教室について、鞄を持つと家への短い帰り道をとぼとぼと一人で歩く。
そう。誰もいないあの家へ。
今は悲しいだけの暖かい思い出が詰まったあの家へ。
暗く、寂しく、嫌って程静かなあの家へ。
重い足を持ち上げて…必死に込み上げる何かを我慢して。
ただ、ひたすら前を向いて歩いた。
今はもういない咲さんの笑顔を思い出して。
ブーッブーッ…と携帯が震えて、ディスプレイを見ると本宮君と表示されてる。
「…もしもし。」
『やっぱさ、今からお前の家行っていい?』
わからない。
だけど、きっとその時の本宮君の声が余りに優しいからだ。
気づいたら…
「うん。」
そう返事をしていたんだ。
電話を切って家の前まで着くと、何故か本宮君はもうそこに居て。
得意げに笑ってた。
「なんだ。…電話する前からいたんでしょ!」
「俺の家帰んの面倒だったからね。」
そこまで遠くないくせに。
だって本宮君の家は私の家の隣。
初めて知った時はびっくりしたけど、実はご近所さんだったんだって。
「…寒いんだけど。」
そりゃあそうだ。
季節は冬で…今日の気温も確かマイナス。
だから、私だってマフラーをしている。
吹く風は冷た過ぎず、心地良いけど。
本宮君は寒いのが弱いみたい。
ガチャリ…と家のドアを開けると、直ぐに家の中へ消えて行った本宮君。
私はまだ玄関にも入っていないのにリビングまで行き、オレンジ色の電気をつけてくれた。
「おかえり。」
そう素っ気なく言って。
勿論その言葉や行動が咲さんの事も知っている、本宮君の優しさだってわかってる。
「ふふっ…ただいま!!」
今日は一人何かじゃない。
そう実感すると、ぽっかりあいた心の穴が少しだけ紛らわす事ができた。
本宮君には本当に感謝してるんだ。
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