驚くのに忙しくてずっと無言の私を見下ろして、彼はちょっと困ったようだった。落としたタオルをこっちへ差し出しながらもう一度聞く。

「・・・なあって。大丈夫、なんですか?結構な勢いでぶつかっちまって・・・その・・・」

 あ。返答を待ってるんだわ、この人。

 ようやくそう気がついて、差し出されたタオルを受け取りながら頷いた。

「大丈夫です。ほら・・・点滴の針も外れてないし。場所がないらしくてここでやってるんですけど、そりゃあ邪魔ですよね、すみません」

 点滴に繋がれた腕を見せてそう言うと、彼は腕から点滴の薬袋までをチラリと目でなぞった。それから切れて血が少し滲んでいる口元をきゅっと上げて、笑顔を作ったようだった。

「そっか、それは良かった、です。じゃあ、お邪魔しました~」

 ヒョイと片手をあげて、使いにくそうな丁寧な言葉を出して、彼は衝立の向こうへ消えた。

 私の瞼にはその塞がりかけた片目の残像や光ったブルーのアクセサリーがいつまでも残る。潰れてないほうの瞳は甘えん坊そうなタレ目だった。彼は、あんなに顔がボコボコでなかったら結構整った顔をしているのじゃないかしらね、そう思って、私はまた一人で壁にもたれる。

 ・・・ああ、それにしてもビックリした。