「おやおや・・・最近見ないなあ~と思っていたのに」

 残念だねえ、そう柔らかく言って、主治医の村上先生が苦笑した。

 私が小学生の頃からお世話になっていて、私の体のことは何でも知っているおじいちゃん先生だった。私は先生の顔を見て、心の底から安心する。ああ、辛い・・・だけど、もう大丈夫だって、先生の手で触れられるとすぐにそう思えるのだ。

 肉厚の温かい大きな手。この手で私は数々の危機を乗り越えてこられたのだから。

「・・・ちょっと油断しちゃって・・・。遠出して、疲れたんです」

 私が細い声で言うと、仕方ない人だね、君は、といつもの説教が降って来た。

「普通の人間でも疲れが出始める時期に、体の弱い人間はじっとしとかなきゃダメなんだよ。さ、ちょっと今日は混んでて忙しいから、部屋が空いてないので悪いけどあっちで点滴しようか」

 歩けないので車椅子に乗せられて、廊下を衝立で囲んだ場所で私は点滴をうけることになった。確かに、今晩はやたらと怪我人が多いようだった。

 なんだろう、どっかで喧嘩でもあったのかな?何か・・・イベントで事故とか?

 熱が高くてうつらうつらする。そんな状態で、車椅子に座ってタオルをクッションにして頭を壁に預けていた。小さな夜間受付の、ざわざわする音が響いてくる。

 ほんと、今日は騒がしい・・・・。

 ぼんやりとそんなことを考えていたら、さっきまであった強烈な寒気が消えているのに気がついた。