高原に一人で出かけたその夜に、熱が出た。


「うう~・・・本当に、情けないったら」

 頭の下にアイスノンを敷きながらソファーに寝転んでブツブツ言う私を覗き込んで、姉が呆れた声を出す。

「疲れたのよ、そりゃあそうでしょ。今までの潤子なら一泊するような距離を日帰りで行ったんだから。今年の夏は折角一度も倒れなかったのに、最後にこれとはね~」

 はい、体温計終わった?そう言って私の脇から電子体温計を抜き取る。そして表示を見て、姉は眉毛を八の字に下げた。

「・・・39度突破してるわ。これじゃあしんどいでしょう。夜間行きましょうか」

 ええ~、もうやだ~!私は情けなさから泣きそうになりつつ、苦しい呼吸の下で小さな抵抗を試みる。

「も、もう薬飲んで寝とくから。お姉ちゃんまだ仕事あるんでしょう、気にしなくていいから、続きしてよ」

「この小さな家で視界の端でうんうん唸られているのが嫌なのよ!私の為を思うなら、大人しく救急いってちょうだい。点滴でもしてさっさと下げるほうがいいわよ」

 腰に手をあてた姉がそう威嚇するので、仕方なく私はうなずいた。

 もう目の前はクラクラするし、やたらと寒いし、頭も割れそうだ。言い合う元気もないから甘えるべきよね、そう思って重力をいつもの3倍ほど感じる体を何とか起こした。

 ラッキーなことに、姉に車で連れて行って貰った夜間の病院には、私の主治医が勤務していた。