その出会いのことは、秋の間はそんなに私の頭の中に出てこなかった。

 実際、ちょっと忘れかけてもいた。私は両親と実家にいる間から、自分で手作りのアクセサリーをこしらえては友達や、欲しいと言って貰える人に安く販売したりプレゼントしたりしていて、姉と二人で暮らすようになってからは、家賃の為に、それをちゃんとした販売業へと変えたのだ。

 クリスマス前はその注文が結構くる。ここ3年でようやく軌道に乗り出したそれを、私は体調に気をつけながら必死でやっていたのだ。

 だからあの青いピアスの龍治さんて男性のことも、彼が言った3つのRもあまり思い出す暇がなかったのだろう。


 冬が来て、珍しく雪も沢山降って、私は姉と一緒に実家に戻ったりしてお正月をいつものように過ごす。翻訳家である姉が唯一休めるといっていい正月は、こうして家族全員で過ごすのが毎年の恒例だった。

「潤はお仕事どうなの?販売の方は、うまく行ってる?」

 母がそう聞くのに、私はテレビを見たままでうんと答える。無言の父が新聞紙の向こう側で聞き耳を立てているのには気がついていた。

 こたつの中で姉の足が私の太ももを蹴り飛ばした。もっとちゃんと答えなさいってことなんだろう。・・・はいはい、判りました。私は母親の方へ向き直り、ちゃんと言葉を続けた。