「大丈夫ですよ。ちょっとはしゃいでいて、階段から落ちたんです。打ち所が悪くて前足を折ってしまいました」
「うわあー!可哀想に・・・」
あの小さな足を、それは痛そうだわ・・・。私は柴犬のクリちゃんの前足の怪我を想像して暗くなる。すると徳井さんが、あの掠れた静かな声で言った。
「クリは大丈夫です。だけど阿達さんは・・・大丈夫ですか?彼、えらく怒ってましたけど」
「え?」
・・・あ、そうだった。私は龍さんが立ち去った方向を見てため息をついた。
「クリがいなくても習慣になってるからつい散歩に来たんです。すると、怒鳴り声が」
「あ、それは私のせいなんです」
徳井さんの真面目な顔に、ハッとした。もしかして龍さんが悪者になっているのでは!?遅ればせながらそう思ったのだ。
私は両手をバタバタと顔の前で振りながら言った。
「その・・・私はどうも口が下手で・・・うまく、言えないんです。言う必要があることや、言いたいことなんかが。それで彼がイライラしちゃったみたいで・・・」
徳井さんは風に乱された髪を片手で直す。それから落ち着いた声で言った。
「イライラして――――――怒鳴ったわけですか?彼はちょっと短気なのかな」
「短気だとは自分でも言ってましたけど・・・で、私に当たらなくていいようにってストレスを発散しに行ってしまいました」
私がそう言うと、彼は少し笑った。
「・・・ああ、それを聞いて安心しました。乱暴な人ではないんですね」



