「子供も交えてのデートが普通で、それが苦しかった時もあった。だけど、もう自分の子供はいいかなって思えるようになった頃から、楽になったの。私は彼の娘さんと5歳の頃からたまに会うお姉さんという形で付き合ってきて、彼女ももう父親の恋人なんだということは判ってる。それで、そろそろ一緒になろうか、って話が出たの」
すっかり食欲など消え去って、私はお箸をちゃんとテーブルに置いた。どうしても気になることがあるとすれば、これだけだ。私は一度空咳をして、姉に尋ねる。
「前の――――――奥さんは、どうしたの?」
自分もバツ1なのだ。勿論気になるのはその点だ。日本では、子供が小さければ小さいほど、例え離婚理由が母親にあったとしても親権は母親に任されることが多い。なぜ、彼は娘さんを育てているのだろうって不思議だったのだ。
龍さんじゃないけれど、離婚の理由がDVなどでなかったら、それこそ私は姉の家族として安心できるんだけど―――――――・・・
姉は大人びた微笑を浮かべて答える。
「ああ、言い方がちょっと違ったわね。彼の奥様は、亡くなってるの。ただ交通事故で亡くなる前に、性格の不一致で離婚していた。だから死別というわけではないのね」
「もう・・・いらっしゃらないのね」
本当の母親が存在していけないわけはない。だけど、いればいたでまた別の難しい問題があることは確かなのだ。その子供にしてみれば、産みの母親はいつまでも一人きりなのだから。
でも、もう本当の意味で、いないのなら・・・。
私は座りなおした。姉の話をもっと真剣に聞かなくてはならない。



