「お互い体には気をつけましょう。在宅は、運動不足になりがちですからね」

「はい、本当にそうですね」

 二人とも微笑んだ。そして徳井さんは、会釈をしてからクリちゃんを連れて行ってしまった。私はもう暫くその後姿を見送って、汗をダラダラ流した状態で家へと帰る。

 何かが起こるときって、一度なのかもしれないな、私はそんなことを歩きながら考えた。

 龍さんに徳井さん、ほぼ同時期に出会った男性が二人。徳井さんとは友達にすらなっていないけれど、男性に興味をもたれたという事実が、若干ではあっても私をポジティブに変えていた。

 そんなこともあるんだな、そういう感じだった。残暑の中、汗を垂らして何とか帰り、ゴミ袋をベランダにおいて私は台所へと直行する。

 今は冷たいお水が必要だわ、そう思って。


 何かが起こるときって、一度なのかもしれない――――――――その言葉を、私はもう一度じっくりと思うことになったのだ。

 それは、その日の夜だった。

「え?」

 驚いて、私はお箸を取り落としてしまった。

 目の前に座る姉の顔を凝視する。・・・今、お姉ちゃん何て言った??

 いつもの明るい笑顔ではなく、しっとりとした柔らかい微笑みを浮かべて、姉が私を見ている。それは話を聞いたばかりの妹の正直な気持ちを推し量るように、観察しているかのような視線だった。