お母さんと○○○大学病院へ着いたすっごく怖かった。
検査着に着替えて診察を待つあいだ、いろんなことが頭によぎった。

とにかく頭にあるのは奏汰のこと。それと、学校のこと、家族のこと、彼氏のこと。


診察の番が来た。

問診から始まり、まずわたしの喋り方を指摘される。
「いつからこういう喋り方ですか?」
お母さんは聞かれても「小さい時から舌ったらずで滑舌悪い喋り方だけど特に何かおかしいとは思ったことはないです」と答える。

言われるがまま診察の先生の指示通り動く。

歩く。

歩き方を見てすぐに先生は
「小児脳性麻痺は持ってますか?」とお母さんに聞く。

小4になる前の春休みに自転車事故を起こして怪我してから以降は長距離歩くのが大変だったりしたけどそれ以外特に何も問題なかったと話した。
医師「小児脳性麻痺の子と同じ歩き方をしているんだよね。遺伝の病気だと思うんだよね、検査してみないとハッキリ断言できないけど。」

私はポカーンってなってお母さんと先生だけで繰り広げられる話を他人ごとみたく聞いてた。

医師「お母さんお父さんのご出身はどちらで?いとこ同士だったりしますか?血縁関係は?ご家族や親戚に脳の病気の方はいらっしゃいますか?」


もうなんだか、別世界に来てるみたい。誰かこのモノクロな世界から救い出して、違う世界へ私は迷い込んだだけなの。そうだよ、嵐に夢中になりすぎて道を間違えたとかさ、、、


なんてそんなこと考えてるうちにお母さんと医者の会話が

もう今すぐこのまま検査入院ね、みたいな雰囲気になってる。


医師「今空いてるすぐ手配できる部屋ねー、えーっと4万円の部屋ね、」

母「え!?4万ですか!?ちょっと待ってください」

来空「ちょっと待ってください!!私の意見は聞かずに検査入院って一体なんなんですか?私はどこかおかしいんですか?なんの病気なんですか?」

(お母さんは金銭面で驚いて、ちょっと待ってと言ったけど私は違う)

医師「それを調べるために検査入院をするんだよ。心配いらないよ」

来空「あの。今日は帰らせてください。家で家族と話してからまたすぐ来ます」



その、私のひとことでその日の入院はまぬがれた。

診察室から出た途端に私を支えて歩くとなりのお母さんに私はマシンガン並みに何か訴えてた。問い出してたと言ったほうが近いのかな。

でもむしろお母さんのほうが混乱していて、帰り道もずっと黙ってた。
家に帰ってひと息ついたところで、逆に今度はお母さんがマシンガン並みに何か訴えてくるというか話しかけてくる。


私は確実にママの子だ。(笑)似てるとしか言いようがないね(笑)


「あの人信じられないわ!なによ、お父さんとお母さんがいとこ同士なのか?とか言うんだよ!?なにも娘の前で話さなくていいのに!!!」
みたいにとにかく怒ってたお母さん。お姉ちゃんやお父さんにも同じように今日の病院での説明をする。



来空「ねぇ、わたし喋り方おかしい?」




歩き方はもちろん、喋り方だとか数学が全く出来ないこととか。

『貴方本当に普通の高校行っているの?ちゃんと試験で受験して入ったの?』
なんかうちにとってはショックな言葉ばっかり。

医者は冷淡に真実だけを伝えてくる。それだけに16歳になったばかりのわたしの心にはその言葉一つ一つに傷ついてた。でも喋り方は、イジメのターゲットの原因になってたことは私は知っていたから余計に図星つかれたようで悲しかったのです。



母「そんなことないのよ。気にしなくていいの」

父「検査入院するのなら、早く入院したほうがいいよな。」

お母さんとお父さんがそう言ってるときに
奏汰を抱きしめながら私は思った。


私が入院なんかしたらこの子はどうなるんだろう。
お母さんは世話してくれてるけど、しつけを毎日して毎日散歩もして一番この子が信頼しているのは私だけで私に一途に信じてくれてる、愛をくれてる。
そんな信じてる相手が突然検査入院だとはいえ消えたら悲しむしショックに決まってる。しかもまだこの子は大きいけどまだまだ子供だ。生まれて一年も経ってない子だ。


そして家族で毎年クリスマスのディズニーランドへ行くことは私たち家族の毎年恒例になってた。
むしろこの恒例が家族を家族らしくさせてくれてた、楽しい時間を過ごせる時だった。唯一ディズニーランドの日だけは朝から晩まで一緒に家族みんな居られるのだから。。。

そういえば反抗しまくってたときにお母さんと一緒にいった本屋で、ディズニーファンという雑誌を買って12月11日に行くって私は決めてた。
家族もその日は空けていてくれる約束だった。


確か12月10日までがテスト期間だ。

テストまで入院しないでいれば、ギリギリまで友達とまた会えるしディズニーランドに行くこともできるだろう。
そして出来る限り奏汰くんのそばに居てあげることもできる。


私の計画的な大きな嘘がここで奏汰を腕に抱きしめながら考えた。



数日後…

大学病院の診察室にて

医師「話し合えましたかね?」

母「入院するのお願いしたいと思います、ただお値段安いお部屋でお願いしたいんですけど…」

来空「お母さん、、、私テストがある。」

母・医師「え!?なに??」

来空「テスト期間終わるまで入院したくない。先生、12月10日までがテスト期間ですそれ以降でお願いします。」


お母さんがキョトンとしてるけど貴女らしいわ、というような顔もしてる。


医師「じゃあ、一番早い12月13日の月曜日に予約しておくから。入院の手続きしていってね。説明は看護師がするから外でお待ちを」

と言って診察室から出た。


帰ってからそれを聞いたお父さんは普通に嘘だともおもわずにお母さん同様に「真面目だなぁ〜」みたいに受け流してた。


ただお姉ちゃんだけは「はぁ???テストのためとかありえない!テスト勉強とかもありえないしなんなの??そんなにテスト好きなの?」ってなんか怒ってた。

お姉ちゃんだけは、変だって分かってたのかな。

「あなたと違って希は~…」みたいなことをよく親は言う。だから余計腹立つのかもしれない。


お姉ちゃん、ごめんね。あのとき、テストのために学校行きたいからってのは嘘でした。
全部嘘でした。
お母さんもお父さんも騙してごめんね。


でもまんまと引っかかる本当か区別つかない嘘がつけるくらい、私は本当に一生懸命努力してきた。勉強だってたくさん人一倍した。人一倍やって人より下だ。
それでもめげずに毎日毎日毎日ずっと勉強してた。


だからガリ勉ちゃんの大まじめって思われて、その嘘は誰も私が抱えた不安を消すための時間だとは思わなかっただろう。