私が初めて彼と出逢ったのは七月の始め、平年より少し早く梅雨が明けたある日曜日の昼下がりのことだ。

私の母は私がまだ幼いころに重病に犯され徐々に全身を蝕まれ、死んでいった。そんな母を身近で見ていた影響からなのか、いつの間にか私の将来の夢は看護師になっていた。
その夢をかなえるため地元でもトップレベルの高校を受けようとしていた私は日々、勉強に明け暮れていた。

午前五時起床。朝食、洗顔、歯磨きを終えたら自室の机に向かい勉強を始める。それから正午まではノンストップだ。昼食を終えたら一旦休憩、ペットのアイスコーヒーを飲みながらテレビ観賞。
それからまた勉強。これが私の休日の過ごし方だ。

しかし、この日は少しばかり違っていた。例によって五時に目を覚まし、朝食、洗顔、歯磨き。そして勉強。昼食。ここまでは普段と同じ。

ここでアクシデントが起こった。私が毎日飲んでいるアイスコーヒーがねずみの小便くらいの量を残して消えていたのだ。遅くまで仕事をして帰ってきた父が飲んだのだろう。

例えば消えていたのがオレンジジュースなら私はいつもどおりのアクションを続けていただろう。しかしアイスコーヒーとなれば話は別だ。最早アイスコーヒーは私の生活の一部と化しているのだ。

この工程をなくしてしまったらこれからの予定が全て狂う。それはいけない。

幸いなことに家の近くには大きなスーパーが二つある。どちらも徒歩5分以内の場所だ。

お金もある。4,5日前に今月分の小遣いをもらったばかりだ。そうでなくとも勉強ばかりしていカラオケにもゲーセンにも行かない私の財布の中はそこらへんのフリーターよりは肥えているだろう。

先月の誕生部に父に買ってもらったスニーカーを履いてカーキ色の自転車に跨る。

私は2つあるスーパーの内、より近い方を頭に浮かべた。ペダルを漕ぐ。

今日はやけに風が心地よく感じた。