結沙は、気が付くと常に薫を見ていた。


(浅野くんって表情がコロコロ変わるよなぁ…。さすが気分屋。それに思った否定的なことをすぐ口に出すし…。心の中だけにしとけばいいのに。まぁ、だからこそお世辞を言わないから、あの『楽しかった』って言葉に凄く喜べれるんだけどね…)


長所と短所は紙一重とはよく言ったものだ、と結沙は感じた。


(それにしても…浅野くんと手を繋ぎだい頭をなでたい抱きしめたい……って最近ずっとこればっかり考えてるよ)


好きなのかどうかはまだあやふやだが、確実にその欲求があるとは言える。


(………あれ、私変態じゃない?)


今さらながら結沙は気が付いた。







授業中。


彰翔はいつも通り後ろを向いて薫と話していた



結沙は二人の会話に耳を傾ける。


すると、その時薫が言った。


「そうそう、この間こいつと尾川と遊んだんだけどさ」


結沙は驚いた。


(え、急に私の話題!?)


「ん、どうだった?」


と彰翔が返す。


すると、薫は笑いながら続けた。


「まぁ、あれのレベルはまぁまぁかな」


結沙は、あの音ゲーのことを言っているのだろうと思った。


「へぇ」


彰翔の返事は淡泊だ。


本来彼はこういう性格だから、当たり前といえば当たり前なのだが。


すると、そこで薫は何かを思い付いたように言った。


「そういえば、こいつね、傘の中に俺を入れようとしてくんの。身長の低い方が持つってウケるよね」


「お前が持ってやれよ」


彰翔が至極まともな突っ込みをした。


すると、薫は結沙が考えていた通りの発言をした。


「いや、だって俺別に入らなくてもいいし。だったら抜けるよ」


(ですよねー!)


結沙は心の中で叫ぶ。


薫はそこまで話すと、くるりと前を向いた。


すると、その途端、彰翔が薄笑いを浮かべながら、結沙に言った。


「良かったね」


結沙の心臓が、ドキンと跳ねた。


(――!な、なっ!!)


結沙は動揺がバレないよう、平静を保ちながら答える。


「え、何が?」


「いや、別にー」


彰翔はそう言うと、視線を結沙から黒板に移した。


(こ、こいつ…!)


絶対気付いてる、と結沙は感じた。


(さすが坂橋さん…侮り難し……)


結沙はこっそりと小さく息を吐いた。