毒舌家で気分屋なあなたに恋をした

中古本屋も見終わり、帰ることになった。


道を歩きながら、結沙はつぶやく。


「今日は結構楽しかったね」


「そうだね」


と友歌が返す。


だが、薫は何も言わない。


(まぁ、浅野くんはもし楽しいと思っていたとしても、言わない人だからね)


結沙は苦笑した。


すると、信号があった。


色は赤。


だが、


「浅野くん!?」


薫はそれを渡った。


結沙は追いかけるか追いかけないか迷ったが、結局追いかけなかった。


薫は、向こう側で笑顔で手を振った。


「バイバイ」


「あっ…」


結沙は、振り返せなかった。


気が付いた時には、薫はもう再び歩き出していた。


だが、時々ちらちらと結沙たちの方を振り向いている。


「…かわいいじゃないか、バカ」


「結沙?」


「え、あ、なんでもないよ、友歌!」


「そう?ならいいんだけど…」


友歌は何事にも深く追及しないタイプだ。


だからあっさりと引いたのだが、なぜか結沙は少し落胆した。


(私、誰かに言いたいのかな。この、気持ちの変化を)


結沙は一回ゆっくりとまぶたを閉じ、再び開けた。


信号が青に変わる。


薫の姿は、もう見えない。


結沙は悲しげに微笑み、足を踏み出した。