毒舌家で気分屋なあなたに恋をした

「ちょ、浅野くん待っ、歩くの速くない?」


「別に」


「いや速いって」


「だってこれでも遅くしてるし。本当ならこれぐらい」


「うわっ!待って歩み速めないで!傘に入れられないでしょ!」


「だから入れてくれなくていいって」


「ダメでしょ風邪ひく!」


結沙は一生懸命に腕を伸ばし、傘の中に薫を入れていた。


自転車でゲーセンへ来た薫は、傘を持っていなかったのだ。


それを見た結沙は、自分の中に薫を入れて歩いている、といった状況になっている。


(アニメのお店までは近いし、自転車置き場がないから浅野くんも歩いているわけだけど…。まさか自分は傘を差して浅野くんは入れません、なんてことできるわけないし。けど浅野くん身長高いから腕がホント疲れるな…)


だが、薫に持てと言ったところで「なら俺入らないから」と返されるに決まっている。


(せっかく相合い傘なのに…。――ん?あいあいがさ…!?え、ちょっ、うそっ!?そうだよ、今相合い傘の状態だよね!?)


結沙は今更ながらに自分の行動を理解した。


そして、ちらりと横の薫を見る。


そこに本当に薫がいると感じ、結沙は顔が赤くなっていくのを感じた。


(まさか…まさか、相合い傘を自分が経験することになるなんて…)


半ば放心状態で結沙が歩いていると、目的のお店に着いた。


結沙と友歌は傘を閉じ、袋を被せた。


薫はそんな二人に構わず中に入る。


結沙は慌てて後を追った。