桜の花が咲き乱れる季節。


始業式と呼ばれる日に、結沙(ユイサ)は廊下いっぱいに広がった人の波をかき分け、前に進んでいた。


「すみません、すみません、通してください…」


そうやって進んでいると、掲示板までたどり着いた。


ホッと息をつく。


「ええと…私はどこのクラスかな…」


一生懸命背伸びをし、自分の名前を探す。


「福宮結沙(フクミヤ ユイサ)…福宮結沙……あ、あった!」


無事自分の名前を見つけると、続いてクラスを確認する。


「三年、七組かぁ。担任は…あれ、去年と一緒だ。まあ、あの先生好きだしいいかな。後は、このクラスに誰かいるかな……あ!星菜(セイナ)と一緒だ!やったっ!」


真山星菜(マヤマ セイナ)とは、小学校の頃からとても仲が良い友達だ。


(今年は受験生だけど…なんだか楽しい一年になりそう)


結沙が心踊らしていると、隣からポツリと呟く声が聞こえた。


「三年七組…か」


「え?」


結沙は思わず横を見たが、声の主はすでにクラスに向かって歩いており、背中しか見ることはできなかった。


だが、結沙は誰か薄々感づいていた。


(もしかしてあの人…。浅野薫(アサノ カオル)くん?確か、一年の時同じクラスだった…)


薫の雰囲気は独特だ。


他者を寄せ付けなさそうなオーラを出しているのに、なぜか気付けば彼の周りには人がいる。


結沙は昔から、彼のそんなところが不思議で、彼と会話したいと望んでいた。


だが、それは叶わず、二年になりクラスが別れ、薫と話すことはもうない…はずだった。


(浅野くん…今年は、仲良くできるといいな)


そんな淡い希望を抱きながら、結沙も三年七組の教室に向かって、人の波の中を進んでいった。




――そう、彼と彼女の物語は


この日から


始まっていたのだ――