戸惑いも恥ずかしさもなかった。
ただ本能のようにその胸に飛び込むと、力一杯抱き締めてくれた。
「綾ちゃん、この世にこんなに愛しい存在が有るってことを教えてくれてありがとう」
「……私こそ…ありがとうお父さん」
わーん。と泣き出したいほど幸せだ。
だけど、脳裏にチラリと浮かんだ斎藤さんの顔。
──もう、メイクを崩してはいけない
涙を堪えて父の顔を見上げると、苦笑しながら、頭をガシガシと掻いている。
「あぁ、もう。こんなにかわいい娘を手放したくないよ。直樹くんには悪いが、嫁にやれない」
「……え?」
「って思うくらい今日の僕の心境は複雑だ」
呆気取られる私に、いたずらっ子のように微笑む父の顔。
「彼なら大丈夫。信じてついていけば良い。必ず幸せになれるよ」
「……はい」
「さて、行こうか。もう待ちきれないと、向こうから迎えに来る前に」
そう言って、私の横に立ち、肘をまげ私へと差し出す。
「はい」
その腕に、手を添えてにっこりと微笑むと、はぁー。とまたもため息を漏らす父
「ホントは渡したくないなぁ」
「プッ」
「世の中の父親は、皆こんな気持ちを抱えながら、娘の幸せを信じて嫁がせるんだろうね」
「その信用を裏切らないように頑張ります」
「うん」と小さく頷いて、歩を進める父に寄り添うように部屋を後にした。
ただ本能のようにその胸に飛び込むと、力一杯抱き締めてくれた。
「綾ちゃん、この世にこんなに愛しい存在が有るってことを教えてくれてありがとう」
「……私こそ…ありがとうお父さん」
わーん。と泣き出したいほど幸せだ。
だけど、脳裏にチラリと浮かんだ斎藤さんの顔。
──もう、メイクを崩してはいけない
涙を堪えて父の顔を見上げると、苦笑しながら、頭をガシガシと掻いている。
「あぁ、もう。こんなにかわいい娘を手放したくないよ。直樹くんには悪いが、嫁にやれない」
「……え?」
「って思うくらい今日の僕の心境は複雑だ」
呆気取られる私に、いたずらっ子のように微笑む父の顔。
「彼なら大丈夫。信じてついていけば良い。必ず幸せになれるよ」
「……はい」
「さて、行こうか。もう待ちきれないと、向こうから迎えに来る前に」
そう言って、私の横に立ち、肘をまげ私へと差し出す。
「はい」
その腕に、手を添えてにっこりと微笑むと、はぁー。とまたもため息を漏らす父
「ホントは渡したくないなぁ」
「プッ」
「世の中の父親は、皆こんな気持ちを抱えながら、娘の幸せを信じて嫁がせるんだろうね」
「その信用を裏切らないように頑張ります」
「うん」と小さく頷いて、歩を進める父に寄り添うように部屋を後にした。

