「綾と直樹くんと一緒に住んだ数週間ね、もう何年も見ていないアナタの素の顔を見た気がしたわ」
目尻を下げ苦笑する母の顔がまっすく見られず視線をそらした。
「もっとずっと幼かった頃に見たきりの素の綾。
いつの間にか私にもよそ行きの顔をして、本心を隠した綾しか見れてなかったから、直樹くんといる時の無防備な綾を見て、直樹くんに嫉妬しちゃった」
「お母さん……」
「私は母親なのに、娘にこんな顔させてあげられなかったな。ってね。
子どもが唯一無防備に安らげる場所は、母親の前だけなのにね。私は綾にその場所を作ってあげられなかった」
「そんなこと――」
『無いよ』という言葉は、大きく頭を振る母の姿を見て、出てこなくなってしまった。
確かに、いつの頃からか母の前でも自分を偽っていたのは自覚してる。
だけど、それは母のせいではなくて、私が母に心配をかけさせたくなかったから。
常に医療の現場で緊縛した状況に身をおいて働く母は、疲労していたに違いないのに、私にはいつも笑顔で接してくれた。
目尻を下げ苦笑する母の顔がまっすく見られず視線をそらした。
「もっとずっと幼かった頃に見たきりの素の綾。
いつの間にか私にもよそ行きの顔をして、本心を隠した綾しか見れてなかったから、直樹くんといる時の無防備な綾を見て、直樹くんに嫉妬しちゃった」
「お母さん……」
「私は母親なのに、娘にこんな顔させてあげられなかったな。ってね。
子どもが唯一無防備に安らげる場所は、母親の前だけなのにね。私は綾にその場所を作ってあげられなかった」
「そんなこと――」
『無いよ』という言葉は、大きく頭を振る母の姿を見て、出てこなくなってしまった。
確かに、いつの頃からか母の前でも自分を偽っていたのは自覚してる。
だけど、それは母のせいではなくて、私が母に心配をかけさせたくなかったから。
常に医療の現場で緊縛した状況に身をおいて働く母は、疲労していたに違いないのに、私にはいつも笑顔で接してくれた。

