「綾ちゃんに田代はどうしたんだ?」



事情を知らない紺野さんが、訊ねるけど、嗚咽しか出てこない母は答えることができない。



そして、私は自分の口から『虐待されていた』ということができなかった。



それを察した友田が、




「虐待されていたんです」



と静かに答えた。





カッと目を見開き驚いた紺野さんは、ツカツカと私の前に歩み寄ってきた。



突然の彼の行動に、『えっ?』と思った時にはすでに私の体は大きな紺野さんの胸の中にいた。




「すまない。私が暢気に世界を巡ってる間に、君がそんな辛い思いをしていたなんて……辛い思いをさせてしまった」


心の底からの謝罪に聞こえるその声。



抱き潰されてしまうかと思うほど力強く抱き締められる。




「紺野さんは、知らなかった訳ですから」



「いや、私がもっと雅ちゃんを見ていれば、彼女の嘘に気づけたハズなんだ。そしたら、君にもっと暢気な人生を歩ませてあげられたのに。しなくていい苦労をさせてしまった」