輝かしい思い出を語る二人とは逆に、二人の話す田代という男は、私の思う田代という男とは別人なんじゃないだろうか。
私のどこにもその人の記憶は無い。
もしかしたら、自己防衛力によって、意識的にその記憶を捨ててしまったのかも知れない。
だけど、私の心の奥底に、彼の残した深い傷が今も私を苦しめている。
そんな人が、人の命を救う職に就いていたなんて、誰が聞いても信じられない。
「そんな幸せな時間を壊したのは、私」
「雅ちゃん……」
俯く母の顔は一転して暗く悲しみに満ちていて、それを覗き込む紺野さんの顔も一気に歪んでいく。
「紺野さんが宿直あけの日だった。
ちょうどその環境に慣れてきた頃よ。やっていけるかもと、少し傲ってたのね。急患が当時発見されたばかりの感染症の疑いがあると聞いて、私たちの好奇心が先走った行動を取らせてしまったの。
私たちは、紺野さんやベテラン医師の指示もなしに診察に向かってしまった」
母の手が震えていた。
それを、ごく自然に包み込むように握りしめた紺野さん。
私のどこにもその人の記憶は無い。
もしかしたら、自己防衛力によって、意識的にその記憶を捨ててしまったのかも知れない。
だけど、私の心の奥底に、彼の残した深い傷が今も私を苦しめている。
そんな人が、人の命を救う職に就いていたなんて、誰が聞いても信じられない。
「そんな幸せな時間を壊したのは、私」
「雅ちゃん……」
俯く母の顔は一転して暗く悲しみに満ちていて、それを覗き込む紺野さんの顔も一気に歪んでいく。
「紺野さんが宿直あけの日だった。
ちょうどその環境に慣れてきた頃よ。やっていけるかもと、少し傲ってたのね。急患が当時発見されたばかりの感染症の疑いがあると聞いて、私たちの好奇心が先走った行動を取らせてしまったの。
私たちは、紺野さんやベテラン医師の指示もなしに診察に向かってしまった」
母の手が震えていた。
それを、ごく自然に包み込むように握りしめた紺野さん。

