「そうね」と軽く微笑んだ母の目が揺れているように思えた。
いつも凛としていた母のそんな目は見たことがない。
きっと、余程の事なんだろうと、体の芯がゾクリとする。
「先ずは紺野さんの紹介をしなくちゃね。綾は初対面ね。紺野高広さん。昔私が海外派遣医師団に同行看護婦として働いていたことは知ってるわね?」
「うん」
「どうも」と軽く頭を下げた紺野さんに軽く会釈をしながら母の問いかけに答える。
「紺野さんは、そこで一緒に働いていた医師なの。
それは過酷な現場でね。設備も薬品も備品も人間も、なにもかも足りない状況……救急現場で経験してきた知識があるなんて自負は、就いた初日に打ち砕かれたわ」
昔を懐かしんでいるような、それでいて自嘲するような笑みを浮かべる。
「正直いうとね、初日に帰りたくなっちゃって、看護部長に変えるって伝えにいこうと思ったのよ。
看護部長の宿舎に向かう途中で、たまたま処置中だったこの人の言葉が聞こえてきたの。若い医師を指導するその言葉がグサッと胸に刺さって足が動かなくなっちゃったの」
「どんな言葉だったんですか?」
友田が問いかける
いつも凛としていた母のそんな目は見たことがない。
きっと、余程の事なんだろうと、体の芯がゾクリとする。
「先ずは紺野さんの紹介をしなくちゃね。綾は初対面ね。紺野高広さん。昔私が海外派遣医師団に同行看護婦として働いていたことは知ってるわね?」
「うん」
「どうも」と軽く頭を下げた紺野さんに軽く会釈をしながら母の問いかけに答える。
「紺野さんは、そこで一緒に働いていた医師なの。
それは過酷な現場でね。設備も薬品も備品も人間も、なにもかも足りない状況……救急現場で経験してきた知識があるなんて自負は、就いた初日に打ち砕かれたわ」
昔を懐かしんでいるような、それでいて自嘲するような笑みを浮かべる。
「正直いうとね、初日に帰りたくなっちゃって、看護部長に変えるって伝えにいこうと思ったのよ。
看護部長の宿舎に向かう途中で、たまたま処置中だったこの人の言葉が聞こえてきたの。若い医師を指導するその言葉がグサッと胸に刺さって足が動かなくなっちゃったの」
「どんな言葉だったんですか?」
友田が問いかける

