なんて、自分の世界に浸っていた私は、すぐに引き戻された。
何時もの声で。
「佐々木っ!悪い、待たせた。
ーーー何してンだ?」
「別に?」
私はスカートをはたきながら、立ち上がった。
さっきまでの暗い気持ちがどこかへ行ってしまった。
本を棚に戻し、机へ向かった。
「本読まないのか?」
笹原が聞いてくる。その表情がなんだかおかしくて、私は誰にもわからないくらい小さく微笑んだ。
「今日はいいの」
「ーーーっ!」
笹原が頬を染めて、何か言おうとした。
パタパタ、と足音が聞こえてきた。
私は扉の方へ目を向ける。
「洸ーっ!」
……奈々だ。
「やっべ!」
すぐに本棚の影に隠れた笹原。
「あれぇ……。
琴那先輩、洸来てませんかぁ?」
「まだ、来てないよ」
笹原がいないとわかってか、声のトーンが下がった。
「なんだ、いないの。
……先輩、洸と仲良いんですね」
しゃべり方が全然違う。女って、怖い。
「まぁね」
「でもだめですよっ!洸は、奈々のものだからっ♪♪」
「……」
「それじゃっ!」
ドアが閉まり、足音が過ぎるのを待った。
「まるでストーカーだね」
「勘弁してくれよ……」
笹原は疲れた様子だ。
私は、立ち上がって鞄を肩にかけた。
「じゃあスタバ行こうか」
「覚えてたのかよ……」

