それなのに
蓮くんのいない世界で生きていくことは、あたしにはもう出来ない。
そんな矛盾した感情も入り混じる。
蓮くんと女の人の声が交差すると、どうしても卑屈になってしまう。
そんな日々を、少し前から過ごしていた。
「─な。…陽菜?」
突然肩を掴まれ、体がぐらつく。
「蓮くん、どうしたの?」
笑顔で尋ねるあたしに、少し歪んだ表情を見せる蓮くん。
「…あとで、話ある」
「……え…?」
“話ある”
今のあたしには、重く響く言葉。
聞きたくない、怖い。
「わかった。今日の夜でもいい?」
首を傾げるあたしに、小さく頷きリビングに戻っていった蓮くん。
─不安な顔は見せたくない。
そう思った。

