結構、時間がたった。
辺りはだんだんと暗くなってきている。
薄暗い森を抜けると、丘が見えた。
お兄ちゃんはそこで立ち止まり、じっと空を見ている。
「…お兄ちゃん」
息が切れて、汗がにじむ。
私はその場に座り込んだ。
「あづさ…見て」
言われた通り、空を見上げた。
「……綺麗」
そこにあったのは、大自然に恵まれた星空だった。
「俺さ、星好きなんだよな」
「…星?」
「ああ。本当は医者じゃなくて、もっと宇宙と関わりのある仕事につきたいと思ってた」
初めて聞いたお兄ちゃんの本音。
「でも正直、難しいんだよな〜。
俺、勉強出来ないバカだし、医者にだってなれるかわかんねーんだよ」
そう言えば、この前お父さんに言われてたっけ。
「それでも、小さい頃は必死で勉強してた。親に捨てられないように…ってね」
お兄ちゃんは、本当に家族思いなんだ。
少しでも、褒められたくて、愛されたくて一生懸命頑張ってたんだ。
「俺の夢は叶わないかもしれない…それどころか、俺自身もいらないって言われるかもしれないな」
なぜか、お兄ちゃんは笑った。
いや……泣いてた。
「そんな事ないよ。お兄ちゃんは…」
凄く悔しかった。
お兄ちゃんは、こんなに努力してきたのに、何でこんな思いをしなきゃいけないの?
「現実、辛いなー…夢見てた方がよっぽどマシだな」
何も言えなかった。
大好きなお兄ちゃんが、こんなに悩んで苦しんでたなんて…
私は妹だから…見てる事しかできないのかな?
「あっ…でもあづさは、ちゃんと画家になれよ!」
「え…」
私の夢。それは小さい頃から絵描きさんだった。
でも、自分だけそんな…
「お前は俺と違って、絵の才能がある。だから、もったいねーだろ?たった一度の人生、後悔だけはすんじゃねーぞ!」
それはこっちのセリフだよ…
私は無言のまま、もう一度空を見上げた。

