もうすぐ夏がくる。
そのお陰で帰り道は明るい。

自転車のペダルを踏み込む度に風が耳元を掠める。

学校から駅まで約15分ほど自転車を漕ぎ、そこから下りの電車で10分。

毎日の繰り返しにもいい加減慣れた。

行きも帰りも一人。
それも慣れた。


明日も憂鬱だ。
そんなことを考えながら駅に着く。

自転車を駐輪場に止める。
『7』のプレートが下がった列。
別にとめる場所が決められている訳ではないが、いいことがあるように、何ていう理由で『ラッキーセブン』の列に置くようにしている。

改札を抜け、ようやく乗車。
でも座れそうにない。


一人でボックス席を陣取る中年に舌打ちしたい衝動を押さえ、仕方なくドアの脇に立つ。

早く着かないだろうか。

窓の外に目を向ける。


「え?」

初めは目を疑った。
眼鏡を拭いてもう一度見てみる。

間違いない。

見間違える筈がない。
そこにはあたしの彼氏と見知らぬ女が手を繋ぎ、丁度唇を重ねている影があった。


慌てて視線を逸らす。
何故か申し訳ない気持ちが込み上げてきたからだ。

鞄から英語の単語帳を取り出し顔を隠すように開く。
裏切られたという意識の合間、何故か冷静に、どうやって別れようかと考えている自分がいた。


いつの間にか列車は走り出し、町の光が流れていくのに気が付いた。

光を見ながらふと思った。
そう言えば最近あいつはあたしに冷たかった。

つまりそう言うことなのだろう。

きっとあたしといるよりも楽しいだろうし、あたしもあの子を選ぶのが正しいと思う。

不思議と怒りは無かった。
ただ寂しかったし、それと同時にほっとした。

でもまだ別れる勇気はない。
だからもう少し彼女という位置にいたかった。

あたしはその日あらあいつにメールするのを止めた。
あいつからもメールが来ることはなかった。


あいつのことを嫌いにもならなかったけど、多分もう好きでもない。




会話をしなくなったまま、毎日は過ぎていく。
あたしの心は空っぽに近付いていく。


そんなある日、あたしが見付けたのはある掲示板だった。