貴方は覚えているのだろうか、あの日の事。

初めて会った日…。

正確には初めてお互い顔を見合って、直接会話をして、手を繋いだ日。



貴方の温もりも、言葉も、手を握った感触も声も全部覚えている。

覚えているからこそ、涙は止まらないし、止められない。



「相澤さん、今日の午後暇?」

「はい、空いてますけど…。」

「じゃあさ、俺に付き合ってよ、ね?」

「仕方ないですねー。
わかりました。」


今日は天気がいい。
朝から太陽がずっとご機嫌に紫外線を落としてくる。
少し動けば軽く汗をかきそうな陽気だ。

だからかも知れない。

今日の太陽と同じくらい陽気な、悪く言えばチャラいサークルの先輩に笑顔で対応してしまうのは。

先輩は顔立ちが悪い訳ではない。
寧ろ整っている。

チャラいのも見た目だけ。
中身は世話焼きで、責任感の強い誠実な人。

大学に入って2ヶ月。
最初は見た目に気圧され、避けていた。
それが今や一番信頼のおける先輩になった。

ふと、周りにちらほら居た同じ大学の女子のチクリと刺さる視線に気付く。

「それじゃまた後で。
あたしから連絡しますね。」

「あーいよ。じゃねー。」

にこり微笑みひらひら手を振る先輩からそそくさと離れる。

相変わらず女子の視線が痛い。

それもそのはず。
先輩は持ち前のルックスと性格のお陰で、多くの女子から狙われている。

しかも某病院の院長の息子らしい。

ここまで色々揃った物件は中々ない。
誰もが血眼になって競いあっている。

けどあたしはどうしても先輩が好きになれない。
別にどこが嫌、という訳ではない。

ただあいつが忘れられないだけ。

別れてからもう半年。

あいつに勝る男の人にどうしても出会えない。