東校舎の第五理科室は、多目的教室と化していた。
大体理科室なんてものは、多くても四つあればいいものを、何を血迷ったか五つも作るからこうなるんだ。
「第五理科室の掃除なんてしても、使う人いないしさ、意味なくね?」
だから、丸尾君がこう言うのもしょうがないことなんだろう。
髪の毛は茶色に染められ、チャラッチャラのネックレスに、趣味の悪いごつごつした銀色の指輪、ピアスは両耳に5個、みっともないほど着崩した制服、、、
丸尾 雷王、楠ヶ丘高等学校のトップを誇る成績の持ち主であり、理事長の息子。
身なりからは想像も付かない程の高スペックの持ち主。
でも口調もチャラいし、何か私は苦手かな。
そして、その隣の席の私、弓国 りり。数学と体育の苦手な普通の女子高生。
「でもぉ、俺この学校好きだしぃ、掃除だって嫌いじゃねぇしぃ、ちゃんとやるっちゃやるけどぉ?第五理科室の存在の意味?的な?そーゆーのがー、俺、高校入学してだいぶ経つけどぉ、マジでわっかんねー。」
「そうだよねー。もしかしたらさ、第五ってさ、間違えて作っちゃったんじゃない?」
「やー、それはないっしょ!りりちゃんやべー!発想パネェマジウケるわー!」
...丸尾君は、いつもこんなだ。
隣の席になって間もないのにこんなに馴れ馴れしく話してこられると、どう接していいのかわからなくなってしまうんだよなぁ...
返答に困っている私を見兼ねて、丸君は
「あー、わりぃ。こんなとこで時間食ってる場合じゃねぇよな、うーっし、掃除行くかぁー。」
そう言って、私に持っていたほうきを渡してきた。
「...あれ?丸尾君?」
「や、だってよ、女の子に雑巾やらせるとか、男としてダメっしょ。だから、りりちゃんほうきオネシャース!」
「いやいや、そうじゃなくてね」
「あ、黒板消しの方が良かったか?そんなら俺がほうきと雑巾を...」
「違う!丸尾君ちゃんと掃除の説明聞いてたの?!放課後の掃除は一人でやるの!隣の席の人とやるんじゃないよ!」
丸尾君私のことをきょとんとした顔で見つめている。
う...思わず強く言い過ぎたかな。
怒ってるかもしれない。
丸尾君怒ったら怖そうだし、喧嘩も強そうだし...
あわわ、どうしようどうしよう!
すると丸尾君は、
「俺、りりちゃんと仲良くなりてぇから、さ、掃除一緒にやろうと思ったんだけどさぁ。わりぃ、無理矢理押し付けようとして。」
「...へ?」
「てかさ、俺隣の席になってからりりちゃんにすげ〜嫌われてんじゃねぇのかなーって気にしてたんだけどぉ。あー、でも掃除一緒にやって仲良くなろうなんて男らしくねぇか。マジごめんな。今度飯でもおごらせてくんねぇ?」
丸尾君、そんなこと考えてたんだ...
私は丸尾君の手からほうきを取った。
「行こう、第五理科室!」