[短編]One-Way ticket~仁の場合~

「お待たせしました。」


俺はジントニックを彼女の前に置いた。


「ありがとう。」


細くてきれいに飾られた指が
グラスに絡み付いて表面の水滴を舐め取った。


指のきれいな女は好きだ。
飾られたネイルは女をいっそう感じさせる。


俺はほかの客と会話を楽しみながら
意識は彼女のほうにあった。


「マスター?俺梅酒なんて頼んでないよ?」


やってしまった。


「あっ、すみません。マティーニでしたよね?」


俺は急いでグラスに手を伸ばした。


彼女が店に来るとこんなことばかり・・・。


なさけねぇ。


「あの・・・。」

控えめな声が俺を呼んだ。


「はい?」

落ち着け、俺!


「エルトンジョンのレコード置いてますか?」


俺の店には最高のオーディオプレーヤーが置いてある。
曲はもっぱら
俺の趣味でほとんどレコード。
LP版だって置いてある。


「はい。かなり古いのになりますよ?」

俺はレコードを奥の棚から引っ張りだして
彼女に見せた


「これでいいです。」


「解りました。」


一瞬口角が上がって笑顔が見えた。

やべぇ・・・

俺重症だ。