アコの死因は交通事故


ひき逃げ・・・


俺はまだ捕まらない犯人を殺すことを何度も考えていた。


「仁君。君の気持ちはうれしいがアコはそんなことはきっと望んでいないよ。」

口ひげを蓄えたアコの父親は優しく俺を説得した。


それでも
俺はアコの死んだ悲しさを
犯人を憎むことで紛らわすしかできなかった。


「・・・仁君。」

おもむろにアコの母親が口を開いた。

「こんなことを言うのは、気が重いんだけど。
 本当は言わないほうがいいべきなのかとも思うんだけど。」

言い出したくせに言葉を濁す母親が俺をイラつかせた。

「何ですか?」

「アコはね・・・お腹に赤ちゃんがいたの。
 病院の先生が教えてくださって・・・でも・・・
 病院に着いたときにはもう手遅れだったのよ。」


我慢していた涙が細くやせて皺のあるほほを流れ落ちた。


俺は初めてこんなに涙がゆっくり落ちるのを見た。


そして
脳裏には
苦しそうなアコがお腹を押さえる姿が浮かんだ。


紛れもなく
その赤ん坊は俺の子供・・・。


俺とアコのこども・・・。





四十九日を迎える頃
俺はアコの墓前に立って初めて手を合わせた。


目の前にはユリの花束と黄色のおしゃぶりを置いた。

「男か女かわからねーから、とりあえず黄色ならいいだろ?
 な?アコ?赤ん坊のことよろしくな。
 俺だけ取り残されちまって・・・どうすりゃいいんだよ。」

あわせた手に力が入った。

「アコと赤ん坊のぶんまで頑張るな。」


ふと見上げた木にはもう枯葉すら残っていなかった。