冷たい上司の秘密の誘惑

【美穂side】

声を出すまいと、唇を噛みしめる。

それでも、涙は止まってくれなくて・・・

半人前だと思われているのは十分承知してた事だった。

篠田部長が、私に与える仕事は、誰でも出来そうな仕事。

それですら失敗しているんだから、今任されてる仕事が、

私には重すぎるから、怒ってくれてる・・・でも、

三谷先輩を怒るのだけは許せなかった。


こんな私でも、一人前に扱ってくれて、それでいて、フォローしてくれて、

今の仕事も、褒めて指導して、楽しくてしょうがなかった。

三谷先輩には感謝してもしきれないくらいだったから。

だから、必死に止めたのに、

『黙ってろ!』

なんて、怒鳴られてしまって、ショックで、胸が苦しくて、

今までずっと泣かないって決めてきたのに、泣いてしまって・・・


篠田部長は、きっと私を更に嫌いになっただろう、

だから、女ってのは・・・って。


誰もいない廊下の隅で、私は唇を噛みしめたまま泣いていた。


「…バカだな、そんなに唇かんでたら、血が出るぞ」

そう言って私の目の前に来たのは、


「・・・三谷先輩」

止まらない涙のせいで、三谷先輩の顔が歪んで見えた。

それでも、三谷先輩が優しい表情で私を見てくれてるのは分かった。